故郷の夏
夏だ。やっぱり暑い。
旅行に行って、何十年ぶりに海に入った。体力には自信もあったし、泳ぎも金槌ほどでもなく普通に泳げると思っていた。
だが、足がつかない。怖い。水がしょっぱ過ぎてむせる。呼吸が苦しい。
ああ泳げないものだ。やはり海には慣れていなかった。
実家に帰ってきた。
駅に着くと入道雲が山々を通り越してそびえていた。
今、東京でこんな風景が見えているだろうかと考えた。あんまり見れない光景ではないだろうかと。
高校卒業までこの故郷で毎年見ていたはずの夏の空はいつしか僕の中で見慣れぬ光景に変わっていた。
しかし思い返せば夏といえばやっぱりこの空だなとも思う。
雲が低く、そして大きくそびえ立つ。自分の今立っている大地よりはるかに大きい空。そんなイメージだ。
アニメみたいだと思った。0年代アニメだ。
正しくこの空と共に過ごした僕の時間は0年代でその時見ていたのも0年代アニメだ。
自分という物語の主人公になろうと思った。